プロヴァンスの山間に佇む小さな村で、ひとりの女性が始めたラベンダーの再生物語。 

人口8人のアルジャン村から、香りの物語を。

野生ラベンダーの種を受け継ぎ、プロヴァンスの魂の香りをつなぐ

2002年、パリから来た植物好きの女性、ヴェロニクが旅の途中で立ち寄ったのは、南仏の山奥にある人口わずか8人の村、アルジャン。かつてラベンダーで栄えたこの村は、すでに畑も蒸留所も失われ、ひっそりと時を止めていました。

そんな中、石だらけの荒れ地に咲くたった一輪の野生ラベンダーに出会い、ヴェロニクは心を動かされます。
「この香りを、もう一度この地に取り戻したい。」——その想いがすべてのはじまりでした。

彼女は村に移住し、手作業で大きな石を取り除き、畑を耕し、野生ラベンダーから種を採取して苗を育てはじめました。そして3年後の2005年、40年ぶりに村がラベンダーの香りに包まれた瞬間。そのときから、ブルーダルジャンの物語がはじまったのです。

「ラベンダーは、プロヴァンス地方の魂の香りである」—— 作家 ジャン・ジオノ

たどり着いたのは、不便だけど豊かな暮らし

アルジャン村での暮らしは、都会の便利さとは無縁です。

最寄りのパン屋までは、片道30キロの山道を車で走らなければなりません。買い忘れがあっても、簡単には引き返せない。もちろん、カフェやスーパー、美容室もありません。

移住当初、ヴェロニクの収入はパリで働いていた頃の半分以下になりました。でも、不思議と「足りない」と感じることはなかったといいます。

代わりに手に入れたのは、毎朝、窓を開けるたびに目に飛び込んでくる壮大な山の景色。畑で出会う羊たちの穏やかなまなざし、村人たちの「ボンジュール」のあたたかな挨拶。

そこには、便利さの代わりに、人と自然が交わる本来の暮らしがありました。、馬や羊と過ごす穏やかな時間が、人生を彩りで満たしてくれた、とヴェロニクは語ります。

「本当の贅沢とは、自由に生きることかもしれません。」

この村でラベンダーを育てるということは、過去と未来の両方を守ること。それは、自然とともにあるシンプルで丁寧な暮らしの象徴でもあります。

香りで整える、肌と心のルーティン

初収穫から間もなく、ヴェロニクは真正ラベンダーの可能性に着目し、スキンケア開発をスタート。プロヴァンスの伝統療法やアロマの知識を活かし、100%天然由来のシンプルで高機能な処方を追求しました。

真正ラベンダーは、癒し・安眠・ストレスケア・抗炎症など多くの作用を持ち、防腐効果にも優れているため、人工の防腐剤を一切使わない製品づくりが可能です。加えて、オリーブオイル、マルセイユ石鹸、地元産の薬草などを組み合わせ、南仏の風土をそのままボトルに閉じ込めたようなスキンケアシリーズが誕生しました。

これは単なる「香りの製品」ではなく、プロヴァンスの文化と精神を、肌と心に届けるためのライフスタイル提案でもあります。

わたしたちは、この真の歴史遺産を未来につなぎます

ブルーダルジャン農園では今もなお、かつてはこの地に一面に咲いていた在来種の真正ラベンダーを、ひとつひとつ丁寧に、無農薬で育て続けています。

ただの「香り」ではありません。それはこの土地に受け継がれてきた文化であり、自然との共生の象徴なのです。

畑では、村の羊飼いの羊たちが雑草を食べ、足で土をやわらかく耕します。ミツバチたちは、ラベンダーの蜜を集めながら、花の命を未来へとつなぐ。風がラベンダー畑を揺らすたび、空気の中にやさしい香りがふわりと広がり、太陽の光がそのすべてをやさしく包み込みます。

私たちが守っているのは、こうした自然の循環の中にある「香りの遺産」です。

手間ひまをかけたこの営みが、次の世代にまで続いていくこと。そして、その香りがラベンダーの故郷から遠く離れた皆様の暮らしに寄り添い、深呼吸したくなるような穏やかな時間を届けてくれること。

それこそが、私たちブルーダルジャンの願いです。

香りが語る、1000年の時を超える物語

BLEU D’ARGENSが育むラベンダー畑の土壌には、1億年以上の地殻変動と、ケルト・ローマ時代から続く人々の暮らしが重なっています。その香りは、古代の銀鉱山伝説、17世紀の薬草文化、20世紀のラベンダー黄金期、そして40年の空白を経た復興のストーリーを静かに物語っているのです。

ヴェロニクの手によって、再びこの村に咲いた在来種の真正ラベンダー。それは過去の遺産を現在に受け継ぎ、未来へと香りを繋ぐ、プロヴァンスの小さな奇跡です。

10世紀以前 ─ アルジャン村のはじまり

かつて海の底だったこの大地が、山へと姿を変えたのは1億年以上も前のこと。アルジャン村は、紀元前のローマ時代には「Argenteus(銀の村)」と呼ばれ、ケルト語の名残を今に残す、オート=プロヴァンス地方で最も古い村のひとつです。

岩山には古代の城壁や、テンプル騎士団の修道院も築かれていました。まるで、時が眠るような場所でした。

17世紀 ─ 村の再建と薬草ラベンダー

16世紀のペスト禍により村は谷の反対側へと移転。1664年には教会が建てられ、ラベンダーは薬草として人々の暮らしに寄り添い始めます。山の恵みとともに生きる知恵が、静かに根づいていった時代です。

19世紀末〜20世紀初頭 ─ ラベンダー黄金期

ラベンダーを蒸留する香りの文化が開花。アルジャン村の真正ラベンダーは「青い黄金」と呼ばれ、グラースの香水工場を経て世界中の香水へと姿を変えていきました。この小さな村が、世界の香りを動かす時代があったのです。

1970年代 ─ 香りが消えた時代

合成香料の台頭と価格の低下により、真正ラベンダーの価値は下落。アルジャン村ではラベンダー畑が次々と姿を消し、1975年には栽培が完全に途絶えてしまいます。村から香りが消えた、静かな時代のはじまりでした。

2003年〜現在 ─ 再生と希望の物語

一人の女性ヴェロニクが訪れたとき、村は荒れ地になっていました。しかし、山奥に咲く野生ラベンダーと出会い、彼女はこの土地をもう一度香りで満たす決意をします。

畑を耕し、蒸留所を建て、この地にしか咲かない在来種の真正ラベンダーを復興。そして、香りをスキンケアへと昇華させ、世界へと届ける現在へ──