フランス最大級のオーガニックワイン見本市「ミレジム・ビオ」とは?
毎年1月、南フランス・モンペリエで開催される「Millesime Bio(ミレジム・ビオ)」は、ヨーロッパにおけるオーガニックワイン業界の最重要イベントのひとつ。フランス、イタリア、スペインなどを中心に、1500以上のビオ認証を受けたワイナリーが集結し、世界中のワインバイヤーや輸入業者が視察・商談に訪れます。

この見本市は、1993年に数十社の小さな生産者によって始まり、今や世界で最も影響力のあるオーガニックワイン展示会へと成長。展示されるワインはすべて、ヨーロッパの有機認証制度(ABマークやEUオーガニックロゴ)をクリアしており、環境への配慮と品質の両立が求められる厳格な条件のもとで生産されています。
注目すべきは、その規模の大きさだけでなく、出展ワインの多様性。赤・白・ロゼ・スパークリング・オレンジワインに至るまで、ありとあらゆる種類のビオワインが並び、まるで“ヨーロッパのワイン地図”をそのまま縮図にしたような空間が広がっています。
日本ではまだあまり知られていないイベントですが、フランス本国ではビオワインのバイヤーにとって欠かせない商談の場であり、特に南フランス産の高品質なナチュラルワインとの出会いが期待できる見本市でもあります。
なお、Millesime Bioはあくまで業界関係者限定のプロフェッショナル向けイベント。一般消費者の入場はできませんが、その分、出展者とバイヤーの間では真剣な商談が行われており、熱気に満ちた空間となっています。
オーガニックワインが集結するモンペリエの会場で20ワイナリーを試飲

ミレジム・ビオの会場に足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んでくるのは、ずらりと並んだブースの数々。まるでフランス中のワイナリーがこの空間に集結したかのような圧巻の光景です。会場内は大変広く、一日で全てを回るのは到底不可能。今回は事前にリストアップした20のワイナリーに絞って試飲と商談を行いました。
ロワール、ローヌ、ブルゴーニュ、プロヴァンス、そしてラングドック地方のワイナリーなど、各地域を代表する生産者のビオワインが勢ぞろい。会場を歩いているだけで、まるでフランス国内を縦断しているかのような気分になります。
各ブースでは、平均して5〜10種類のワインが用意されており、スタッフの丁寧な説明を聞きながらテイスティング。もちろん全てを飲み干すわけではありませんが、数件まわると自然と体が温まり、ワインの香りに包まれて心地よい酔いが広がります。
特に印象的だったのは、南仏ラングドック地方を中心とした出展者の多さ。日本ではまだあまり知られていないこの地域のオーガニックワインは、個性がありながらも飲みやすく、バリエーションも豊富。ナチュラル志向の新しいフランスワインを発掘するには、まさにうってつけの場所だと感じました。
訪れるたびに「こんなに自然で美味しいワインが、まだ日本には入ってきていないのか」と驚かされるばかり。インポーター目線でも、まだ見ぬ原石に出会える展示会だと実感しました。
土着酵母・手摘み・酸化防止剤無添加のロワールワイン「ルネサンス」

トマさんの会社が輸入しているロワール地方の「Renaissance Fleury Frères(ルネサンス フルリエ・フレール)」のブースでは、代表的なサンセールの白ワインを試飲。
ミネラル感とキレのある酸味、土着酵母による自然な発酵、酸化防止剤無添加、手摘み収穫と、本物のビオへのこだわりが詰まっています。
高級ビオワイン:シャトーヌフ・デュ・パプとエルミタージュ

南仏の高級ワイン産地シャトーヌフ・デュ・パプと、北ローヌのエルミタージュ。いずれも高品質で知られていますが、この展示会ではABマークやHVE(環境価値重視)認証などを取得したビオワインが並んでいました。
試飲してみると、ビオかどうかを超えて、まず「美味しい」と感じる味わい。環境配慮だけでなく、品質にこだわるフランスワイン業界の進化を実感しました。
なぜビオワインが選ばれるのか?フランス消費者の新たな価値観
かつては「環境に良いけれど味は二の次」と思われていたビオワイン。しかし今、フランス国内の消費者の間では、“美味しいからこそビオを選ぶ”という意識が浸透し始めています。
これは単なるブームではなく、ライフスタイルや価値観の変化に基づいた選択。日々の食事や衣類、コスメなどと同じく、「自分の体に取り入れるもの」「家族と囲む食卓の中心にあるもの」に対して、より自然で信頼できるものを選びたいという気持ちが、ビオワインの選択にも現れているのです。

実際、展示会場で試飲をしていると、ブラインドで飲んでも従来のワインと区別がつかないどころか、むしろ味わいの奥行きや繊細さに驚かされる場面が何度もありました。かつて「味が劣る」とされた時代はすでに過去のもの。いまやビオワインは品質の高さでも従来のワインと堂々と肩を並べています。
その上で、環境への配慮や農薬の使用削減、持続可能な農業への貢献といった“目に見えない価値”を付加できることが、フランスの消費者にとって大きな魅力となっています。特に都市部では、ビオ製品を選ぶこと自体が生活スタイルの一部となっており、ワイン選びにも自然とその価値観が反映されています。
また、若い世代の間では「サステナブルであること」「生産者の顔が見えること」「クラフト的な小規模生産であること」など、大量生産ではない丁寧なものづくりへの共感も広がっています。
ビオであるか否かを当てることは難しくても、同じ価格・同じ味わいであれば環境にも人にもやさしい選択肢を選びたい。そうした“優しさのある選択”こそが、今のフランス人のワイン消費に見られる新しい価値観です。
表面的なビオではない、真の価値あるワインを見極める時代へ
ビオワイン市場が拡大し、消費者の関心が高まる一方で、「本当に信頼できるビオなのか?」という問いがますます重要になっています。オーガニック認証のラベルを取得すれば、それだけで売れる。そんな風潮に乗って、形だけの“ラベルウォッシング(見せかけのビオ)”が存在しているのもまた現実です。

中には、環境に配慮した本格的なビオ農法を実践しながらも、あえて認証を取得しない生産者もいます。認証取得には費用や手間がかかり、特に小規模ワイナリーにとっては負担が大きいため、理念や哲学を重視し「本質的なビオ」を貫くために、認証という“枠”にとらわれない選択をするケースも少なくありません。
このような背景を考えると、もはや「認証の有無」だけでは判断できない時代に入っていると言えるでしょう。ワインを選ぶ際には、ラベルの後ろにある“ストーリー”や“思想”、生産者の人柄や地域性に目を向けることが、より豊かなワイン体験に繋がっていくのではないでしょうか。
実際、今回の展示会でも、単に認証を掲げるだけではなく、どのような土壌で育ち、どんな農法を用いているのか、何を大切にしてワインを造っているのか——そうした問いに丁寧に答えてくれる生産者ほど、記憶に残る味わいのワインを手がけていました。
情報が溢れる現代において、本質を見極めるには、販売者やバイヤー、そして消費者自身が“目利き”として育っていくことが求められています。ラベルの華やかさやキャッチーな文言に惑わされず、「誰が、どこで、どんな思いでつくったか」を感じ取る感性が、ワイン選びにおいてますます大切になっていくはずです。
開催概要:Millesime Bio(ミレジム・ビオ)2024

大学都市モンペリエの街並みを歩く|南仏らしい景観美

会場のあるモンペリエは、フランス最古級の大学を擁する歴史ある都市。中世からの旧市街が残り、コメディ広場を起点に絵になる景観が広がります。

街中には精巧なトロンプルイユ(騙し絵)も点在し、南仏らしいやわらかな色彩と文化が感じられます。
旅をする意味、美味しさの裏側を知るということ

どれだけデジタルが進化しても、実際にその土地の空気を吸い、風景を歩き、人の声を聞くことに勝る体験はありません。とくに「香り」や「味」といった感覚にまつわるものは、現地を訪れてこそ、はじめて理解できる奥行きがあると感じています。
私は普段、南フランス・プロヴァンスの山間にある小さな村「アルジャン村」の真正ラベンダー農園「ブルーダルジャン」の日本正規インポーターとして活動しています。香りの本質を日本に届けるために、これまで何度もフランスを訪れてきましたが、そのたびに「旅をすること」と「輸入者という仕事」は密接につながっていると実感しています。
その土地で育まれた植物やワインが、どのような自然環境と人の営みによって生み出されているのか——。紙の上では決して語り尽くせない背景が、五感を通して体に染み込んできます。今回訪れたモンペリエでも同じように、ビオワインの“味”の奥にある“哲学”や“情熱”、そして“土地の物語”を肌で感じることができました。
展示会で出会った生産者の多くは、決して大量生産を目指していません。それよりも、「自分たちの畑でできる最高のものを、正直につくる」という信念を大切にしている。それはブルーダルジャンの創業者ヴェロニクが真正ラベンダーにかける思いと、まったく同じ温度感でした。
香りや味は、単なる“商品”ではありません。それは土地と人の記憶の結晶であり、旅を通してしか触れられない本質でもあります。だからこそ、私は旅をやめることができません。そして、そんな感動を少しでも日本のお客様に届けることができれば、インポーターという仕事は、ただの物流ではなく“文化の翻訳者”になるのだと、改めて感じたのでした。
南仏の地で味わう自然派ワインの今|Millesime Bioレポート
フランス最大級のオーガニックワイン見本市「ミレジム・ビオ」とは?
毎年1月、南フランス・モンペリエで開催される「Millesime Bio(ミレジム・ビオ)」は、ヨーロッパにおけるオーガニックワイン業界の最重要イベントのひとつ。フランス、イタリア、スペインなどを中心に、1500以上のビオ認証を受けたワイナリーが集結し、世界中のワインバイヤーや輸入業者が視察・商談に訪れます。
この見本市は、1993年に数十社の小さな生産者によって始まり、今や世界で最も影響力のあるオーガニックワイン展示会へと成長。展示されるワインはすべて、ヨーロッパの有機認証制度(ABマークやEUオーガニックロゴ)をクリアしており、環境への配慮と品質の両立が求められる厳格な条件のもとで生産されています。
注目すべきは、その規模の大きさだけでなく、出展ワインの多様性。赤・白・ロゼ・スパークリング・オレンジワインに至るまで、ありとあらゆる種類のビオワインが並び、まるで“ヨーロッパのワイン地図”をそのまま縮図にしたような空間が広がっています。
日本ではまだあまり知られていないイベントですが、フランス本国ではビオワインのバイヤーにとって欠かせない商談の場であり、特に南フランス産の高品質なナチュラルワインとの出会いが期待できる見本市でもあります。
なお、Millesime Bioはあくまで業界関係者限定のプロフェッショナル向けイベント。一般消費者の入場はできませんが、その分、出展者とバイヤーの間では真剣な商談が行われており、熱気に満ちた空間となっています。
オーガニックワインが集結するモンペリエの会場で20ワイナリーを試飲
ミレジム・ビオの会場に足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んでくるのは、ずらりと並んだブースの数々。まるでフランス中のワイナリーがこの空間に集結したかのような圧巻の光景です。会場内は大変広く、一日で全てを回るのは到底不可能。今回は事前にリストアップした20のワイナリーに絞って試飲と商談を行いました。
ロワール、ローヌ、ブルゴーニュ、プロヴァンス、そしてラングドック地方のワイナリーなど、各地域を代表する生産者のビオワインが勢ぞろい。会場を歩いているだけで、まるでフランス国内を縦断しているかのような気分になります。
各ブースでは、平均して5〜10種類のワインが用意されており、スタッフの丁寧な説明を聞きながらテイスティング。もちろん全てを飲み干すわけではありませんが、数件まわると自然と体が温まり、ワインの香りに包まれて心地よい酔いが広がります。
特に印象的だったのは、南仏ラングドック地方を中心とした出展者の多さ。日本ではまだあまり知られていないこの地域のオーガニックワインは、個性がありながらも飲みやすく、バリエーションも豊富。ナチュラル志向の新しいフランスワインを発掘するには、まさにうってつけの場所だと感じました。
訪れるたびに「こんなに自然で美味しいワインが、まだ日本には入ってきていないのか」と驚かされるばかり。インポーター目線でも、まだ見ぬ原石に出会える展示会だと実感しました。
土着酵母・手摘み・酸化防止剤無添加のロワールワイン「ルネサンス」
トマさんの会社が輸入しているロワール地方の「Renaissance Fleury Frères(ルネサンス フルリエ・フレール)」のブースでは、代表的なサンセールの白ワインを試飲。
ミネラル感とキレのある酸味、土着酵母による自然な発酵、酸化防止剤無添加、手摘み収穫と、本物のビオへのこだわりが詰まっています。
高級ビオワイン:シャトーヌフ・デュ・パプとエルミタージュ
南仏の高級ワイン産地シャトーヌフ・デュ・パプと、北ローヌのエルミタージュ。いずれも高品質で知られていますが、この展示会ではABマークやHVE(環境価値重視)認証などを取得したビオワインが並んでいました。
試飲してみると、ビオかどうかを超えて、まず「美味しい」と感じる味わい。環境配慮だけでなく、品質にこだわるフランスワイン業界の進化を実感しました。
なぜビオワインが選ばれるのか?フランス消費者の新たな価値観
かつては「環境に良いけれど味は二の次」と思われていたビオワイン。しかし今、フランス国内の消費者の間では、“美味しいからこそビオを選ぶ”という意識が浸透し始めています。
これは単なるブームではなく、ライフスタイルや価値観の変化に基づいた選択。日々の食事や衣類、コスメなどと同じく、「自分の体に取り入れるもの」「家族と囲む食卓の中心にあるもの」に対して、より自然で信頼できるものを選びたいという気持ちが、ビオワインの選択にも現れているのです。
実際、展示会場で試飲をしていると、ブラインドで飲んでも従来のワインと区別がつかないどころか、むしろ味わいの奥行きや繊細さに驚かされる場面が何度もありました。かつて「味が劣る」とされた時代はすでに過去のもの。いまやビオワインは品質の高さでも従来のワインと堂々と肩を並べています。
その上で、環境への配慮や農薬の使用削減、持続可能な農業への貢献といった“目に見えない価値”を付加できることが、フランスの消費者にとって大きな魅力となっています。特に都市部では、ビオ製品を選ぶこと自体が生活スタイルの一部となっており、ワイン選びにも自然とその価値観が反映されています。
また、若い世代の間では「サステナブルであること」「生産者の顔が見えること」「クラフト的な小規模生産であること」など、大量生産ではない丁寧なものづくりへの共感も広がっています。
ビオであるか否かを当てることは難しくても、同じ価格・同じ味わいであれば環境にも人にもやさしい選択肢を選びたい。そうした“優しさのある選択”こそが、今のフランス人のワイン消費に見られる新しい価値観です。
表面的なビオではない、真の価値あるワインを見極める時代へ
ビオワイン市場が拡大し、消費者の関心が高まる一方で、「本当に信頼できるビオなのか?」という問いがますます重要になっています。オーガニック認証のラベルを取得すれば、それだけで売れる。そんな風潮に乗って、形だけの“ラベルウォッシング(見せかけのビオ)”が存在しているのもまた現実です。
中には、環境に配慮した本格的なビオ農法を実践しながらも、あえて認証を取得しない生産者もいます。認証取得には費用や手間がかかり、特に小規模ワイナリーにとっては負担が大きいため、理念や哲学を重視し「本質的なビオ」を貫くために、認証という“枠”にとらわれない選択をするケースも少なくありません。
このような背景を考えると、もはや「認証の有無」だけでは判断できない時代に入っていると言えるでしょう。ワインを選ぶ際には、ラベルの後ろにある“ストーリー”や“思想”、生産者の人柄や地域性に目を向けることが、より豊かなワイン体験に繋がっていくのではないでしょうか。
実際、今回の展示会でも、単に認証を掲げるだけではなく、どのような土壌で育ち、どんな農法を用いているのか、何を大切にしてワインを造っているのか——そうした問いに丁寧に答えてくれる生産者ほど、記憶に残る味わいのワインを手がけていました。
情報が溢れる現代において、本質を見極めるには、販売者やバイヤー、そして消費者自身が“目利き”として育っていくことが求められています。ラベルの華やかさやキャッチーな文言に惑わされず、「誰が、どこで、どんな思いでつくったか」を感じ取る感性が、ワイン選びにおいてますます大切になっていくはずです。
開催概要:Millesime Bio(ミレジム・ビオ)2024
大学都市モンペリエの街並みを歩く|南仏らしい景観美
会場のあるモンペリエは、フランス最古級の大学を擁する歴史ある都市。中世からの旧市街が残り、コメディ広場を起点に絵になる景観が広がります。
街中には精巧なトロンプルイユ(騙し絵)も点在し、南仏らしいやわらかな色彩と文化が感じられます。
旅をする意味、美味しさの裏側を知るということ
どれだけデジタルが進化しても、実際にその土地の空気を吸い、風景を歩き、人の声を聞くことに勝る体験はありません。とくに「香り」や「味」といった感覚にまつわるものは、現地を訪れてこそ、はじめて理解できる奥行きがあると感じています。
私は普段、南フランス・プロヴァンスの山間にある小さな村「アルジャン村」の真正ラベンダー農園「ブルーダルジャン」の日本正規インポーターとして活動しています。香りの本質を日本に届けるために、これまで何度もフランスを訪れてきましたが、そのたびに「旅をすること」と「輸入者という仕事」は密接につながっていると実感しています。
その土地で育まれた植物やワインが、どのような自然環境と人の営みによって生み出されているのか——。紙の上では決して語り尽くせない背景が、五感を通して体に染み込んできます。今回訪れたモンペリエでも同じように、ビオワインの“味”の奥にある“哲学”や“情熱”、そして“土地の物語”を肌で感じることができました。
展示会で出会った生産者の多くは、決して大量生産を目指していません。それよりも、「自分たちの畑でできる最高のものを、正直につくる」という信念を大切にしている。それはブルーダルジャンの創業者ヴェロニクが真正ラベンダーにかける思いと、まったく同じ温度感でした。
香りや味は、単なる“商品”ではありません。それは土地と人の記憶の結晶であり、旅を通してしか触れられない本質でもあります。だからこそ、私は旅をやめることができません。そして、そんな感動を少しでも日本のお客様に届けることができれば、インポーターという仕事は、ただの物流ではなく“文化の翻訳者”になるのだと、改めて感じたのでした。