ヴァランソル高原の絶景と、紫の絨毯|南仏ラベンダー滞在記 2024 Vol.1

ヴァランソル高原の絶景と、紫の絨毯|南仏ラベンダー滞在記 2024 Vol.1

プロヴァンス最大のラベンダー畑「ヴァランソル高原」とは?

ラベンダーといえば、南仏プロヴァンス地方の象徴。古くは2000年以上前から薬草として親しまれ、今では世界中から観光客が訪れる人気の癒しスポットです。中でも、フランス最大のラベンダー栽培面積を誇るのが、標高600mの高地に広がるヴァランソル高原です。

ラベンダー畑の面積はなんと13,101haにものぼり、プロヴァンス地方の絶景写真でよく見かける“紫の海”の多くは、このヴァランソルで撮影されたもの。名産品はラベンダーだけでなく、オリーブオイルやトリュフ、アーモンドなども有名です。

一面の紫に包まれる、念願のヴァランソル高原へ

南仏プロヴァンス地方でラベンダー農園をプロデュースして、気づけばもう9年。ブルーダルジャンの真正ラベンダー農園では毎年収穫時期に現地入りしているものの、これまでなかなかタイミングが合わず、観光地として有名なヴァランソル高原のラベンダー最盛期を見ることができずにいました。

ヴァランソルは、プロヴァンス地方の中でも最も広大なラベンダー畑が広がるエリアとして知られており、かねてより「いつか行きたい場所」のひとつ。写真では何度も見てきた“紫の海”を、自分の目で確かめたいという思いがずっと心に残っていました。

2024年、ようやくその夢が叶うことになります。6月末からディーニュ・レ・バンという町に2ヶ月間滞在することになり、そこから車で1時間ほどの距離にあるヴァランソル高原へ足を延ばすことができたのです。標高600mの高原地帯に近づくにつれて、景色は少しずつ変化し、つづら折りの山道を抜けた先に、突如としてまばゆい紫の大地が現れました。

ヴァランソル高原の入り口

あたり一面に広がるのは、まさにラベンダーの絨毯。なだらかな丘陵地が遠くの空の色と溶け合い、風に揺れる紫の花々がリズムを刻むように揺れています。ラベンダーの香りがそよ風に乗って鼻腔をくすぐり、その香りに包まれると、まるで五感すべてがやさしく解きほぐされていくような感覚になります。

ヴァランソルのラベンダー畑

高原の空気は澄んでいて、聞こえるのは風の音とミツバチの羽音だけ。人工物の気配がほとんどないその場所は、まさに「地上の楽園」と呼ぶにふさわしい風景でした。

どれだけ写真や映像で見ていたとしても、実際に自分の足でラベンダー畑に立ち、風に吹かれながら香りを感じる体験は別格です。これこそが、南仏プロヴァンスが世界中の人々を惹きつけてやまない理由のひとつだと、深く実感しました。

観光客に大人気のラベンダースポット

ヴァランソル高原は、まさに「世界のラベンダー畑」と呼ぶにふさわしい存在です。南仏プロヴァンスの夏を象徴するこの場所には、毎年6月末から7月にかけて、世界中から多くの観光客が訪れます。特にラベンダーが満開を迎える時期には、道路沿いにもレンタカーや観光バスが並び、各国から来た旅行者が写真を撮ったり、香りを楽しんだりしている様子が見られます。

観光ガイドやインスタグラム、旅行雑誌などでもたびたび取り上げられており、「人生で一度は訪れたい絶景スポット」として、日本でも高い人気を誇ります。広がる紫の花畑に立てば、誰もが思わずシャッターを切りたくなる美しさ。プロカメラマンはもちろん、家族連れやカップル、ひとり旅の人まで、さまざまな人たちがそれぞれの「ラベンダーの思い出」を写真に残しています。

観光客でにぎわうヴァランソル高原のラベンダー畑

ただし、人気スポットゆえの課題もあります。畑の一角には「ラベンダーを刈らないでください」という注意書きの看板も設置されています。ラベンダーを勝手に摘み取ってしまう旅行者もいるようで、農家の方々が苦労して育てたラベンダーが観光被害に遭うケースも少なくありません。

ヴァランソルのラベンダー畑は観光資源であると同時に、地元の人々にとっては大切な生活の糧でもあります。写真を撮るときは、畑の中に無断で立ち入らないこと、花に触れすぎないことなど、ほんの少しの心配りが素敵な思い出につながります。

とはいえ、広大なラベンダー畑は自由に見学できる場所も多く、公共の道路沿いからでも十分にその美しさを楽しめます。ちょっと車を停めて深呼吸すれば、空気の中にラベンダーの香りがふわっと広がり、プロヴァンスの夏を五感で体験できます。

観光シーズン中はラベンダー関連のマルシェやイベントも多数開催されており、ラベンダーアイスや蜂蜜、精油などのお土産選びも楽しみのひとつです。現地ならではのフレッシュな香りに触れることで、旅の記憶がより鮮明に残ることでしょう。

ラベンダーの見頃は?ヴァランソルの最適な時期

ヴァランソル高原を訪れる最大の目的といえば、やはり一面に咲き誇るラベンダー畑を見ること。では、その絶景が楽しめる「見頃」はいつなのでしょうか?ヴァランソル高原に広がるラベンダー畑の多くは、香りが強く生産性に優れたラバンジン(Lavandin)という交配種。この品種は、標高や気候の影響を受けながらも、例年6月中旬ごろから色づき始め、6月下旬から7月初旬にかけて満開を迎えます。

気候条件によって多少前後しますが、最も美しい瞬間を見られるのは6月25日〜7月10日頃といわれています。この時期には畑全体が深い紫に染まり、香りも最高潮に達します。写真や動画を撮るにも、光の加減が美しく、朝夕の時間帯は特におすすめです。

ただし、7月中旬に入ると徐々にラベンダーの収穫が始まります。2024年には7月21日にラベンダー収穫祭が開催されましたが、その時点で95%以上の畑がすでに刈り取られていたという状況でした。つまり、ヴァランソルのラベンダーを楽しむベストタイミングは7月上旬までということになります。また、近年の気候変動の影響で、開花と収穫の時期が年々早まる傾向にあります。過去には7月中旬でも楽しめたエリアも、現在では6月末にすでに見頃を終えるケースも。旅行計画を立てる際は、現地の天気予報やSNSでの開花状況を事前にチェックしておくことを強くおすすめします。

なお、真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)を見たい方は、標高の高いエリア(ソー村、セニョン村など)へ行くと、7月中旬以降でも見られることがあります。品種や地域によって咲く時期が異なるのも、プロヴァンスのラベンダー巡りの奥深さです。

旅のベストシーズンを逃さず、ぜひ満開のラベンダーが生み出す紫の絶景を心ゆくまで堪能してください。

アクセスはレンタカーが断然おすすめ!

ヴァランソル高原は公共交通機関ではアクセスが困難です。電車は通っておらず、バスの本数も極端に少ないため、レンタカーでの訪問が必須です。

最近はオートマ車も増えており、道も比較的空いているので運転しやすいです。近隣の街エクサンプロヴァンスマノスクからレンタルして出発すれば、自由度の高い旅が楽しめます。

ラベンダー街道をドライブ中の車窓

自由に寄り道をしたり、時間を気にせず撮影できたり、旅の満足度も大きく変わります。

ヴァランソル旧市街も立ち寄りスポットに最適

ヴァランソル高原の壮大なラベンダー畑を堪能したあとは、ぜひ麓の村「ヴァランソル旧市街」にも足を運んでみてください。ここは、ラベンダー畑の観光に欠かせない休憩と発見の場。人口わずか3000人ほどの小さな村ながら、歴史と香りが息づく美しい空間です。

石造りの家々が立ち並び、迷路のような小道にはブーゲンビリアやゼラニウムが咲き誇り、いかにもプロヴァンスらしい素朴で温かみのある景観が広がります。カフェやブティックも点在しており、ラベンダー精油や石鹸などのお土産を選ぶのにもぴったり。手作りのラベンダーサシェや、農家直送の蜂蜜など、ここでしか出会えない香りのアイテムが揃っています。

ヴァランソル旧市街の通りとブティック

そして、訪れたら必ず立ち寄ってほしいのが、ラベンダーアイスクリーム。淡い藤色の見た目が可愛らしく、ひと口食べるとほのかな花の香りとミルクのコクが口いっぱいに広がります。アイス片手に、村の中心にある噴水広場でひと休みすれば、暑い夏の日もふっと涼やかに。

ラベンダーアイスと旧市街の噴水

広場には昔ながらの洗い場(lavoir)も残っており、地元の人々や観光客が水筒を片手に湧き水を汲みにやってきます。この天然のミネラルウォーターは驚くほど冷たくて美味しく、ラベンダー畑を歩き疲れた身体に染み渡る癒しの一杯。地元の人との何気ない会話が生まれる、プロヴァンスらしい素朴な交流の場でもあります。

洗い場のある広場と湧き水を汲む人々

ラベンダー畑の圧倒的なスケール感とは対照的に、旧市街はとてもコンパクトで歩きやすく、静かでゆったりとした時間が流れています。畑を見た後の「もうひとつのヴァランソルの顔」に出会える場所として、訪問ルートにぜひ組み込んでみてください。

ヴァランソル高原とヴェルドン峡谷の絶景コントラスト

ヴァランソル高原のラベンダー畑を見渡すと、遠くの地平線に美しい断崖と渓谷の稜線が浮かび上がっているのに気づきます。実はそこが、フランスで最も美しい渓谷のひとつと称される「ヴェルドン峡谷(Gorges du Verdon)」です。

ラベンダーの紫と、峡谷を流れるエメラルドグリーンの川――自然が織りなす色彩のコントラストは、まさに息を呑む美しさ。地上ではラベンダーが風に揺れ、空には入道雲が広がり、目の前には切り立った岩壁と透き通る水。南仏らしい乾いた空気の中で、どこを切り取っても絵になる風景が続きます。

ヴァランソル高原とヴェルドン峡谷は、距離にしてわずか車で30分〜40分ほど。プロヴァンス地方を代表する絶景スポット同士が、実はとても近い場所に隣接しているのです。ラベンダーの見頃シーズンにあわせて訪れれば、半日でまったく異なる2つの風景を一度に味わうことも可能です。

ヴァランソルからヴェルドン方面へ抜ける「ラベンダー街道(Routes de la Lavande)」は、ドライブ派にとってまさに天国のような道。ラベンダー畑の中を縫うように進みながら、徐々に視界が開け、やがて深い渓谷が現れるという、ドラマチックな風景の変化を楽しめます。

特におすすめなのが、ラ・パリュ=シュル=ヴェルドン(La Palud-sur-Verdon)ムスティエ=サント=マリー(Moustiers-Sainte-Marie)といった周辺の村々。どちらも中世の面影を残した美しい町で、峡谷とセットで観光するのにぴったりです。

ヴァランソルのラベンダーだけでも感動的ですが、大自然のスケールと色彩の対話を感じられるのはこのエリアならでは。時間に余裕があれば、ぜひ車を走らせてヴェルドン峡谷にも足を延ばしてみてください。花の香りと風の音、そして断崖の静寂が心に残る、忘れられない一日になるはずです。

ラベンダーの絶景から、収穫の現場へ──

南仏プロヴァンスの夏を彩るラベンダー畑。その圧倒的な美しさに心奪われた数日後、私は観光客としてではなく、現地の農園でラベンダーの収穫作業に加わることになりました。

ラベンダーの香りに包まれて働くということ。カマを片手に畑へ出て、手で刈り取るという昔ながらの手法に触れながら、香りが「植物」から「精油」へと姿を変えていく過程を目の当たりにする日々が始まります。

次回は、真夏のプロヴァンスで過ごした、収穫と香りのある暮らしについて綴ります。

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