プロヴァンスのラベンダーに“紫の警報”──価格崩壊と生産者の危機

プロヴァンスのラベンダーに“紫の警報”──価格崩壊と生産者の危機
プロヴァンスを象徴する植物、ラベンダーとラバンジンが、深刻な危機に直面しています。原因は、猛暑による不作と害虫被害に加え、外国産との価格競争や供給過剰。今、現地の生産者たちは存続の岐路に立たされています。

「この夏は、生産者たちの将来への不安がはっきりと見て取れました。50年前までは、うちの県(アルプ=ド=オート=プロヴァンス)は世界最大のラベンダー生産地でしたが、その伝統が失われつつあります。価格が回復することを願っていますが、国際競争と、EUの厳しい規制(ラベンダーをほとんど“有害物質”扱いするようなルール)を考えると、それはまさに賭けです。」 

こう語るのは、8月に開催された第102回「ディーニュ=レ=バン・ラベンダー祭り」の主催者であり、地元のラベンダー農家の現状をよく知るベルナール・テシエ氏。ラベンダー(標高の高い地で育つ希少種)とラバンジン(低地で育つ交配種)は、美しい色と香り、そして薬効のある植物として長く親しまれてきました。

害虫と猛暑、さらに外国産の安価な競争

今年の収穫期直前、猛暑(6月)と「クリソメル」という害虫の大量発生により、花が十分に育たず、収穫量は前年比で平均30%減に。しかも、最近はオーヴェルニュやイル=ド=フランスなど他の地域でもラベンダー栽培が拡大しており、供給過剰状態に拍車をかけています。 そこへ追い討ちをかけるのが、ギリシャ、ブルガリア、トルコなどの低コスト国による輸出攻勢。特に打撃を受けているのは、石けんや洗剤向けに大量に使われるラバンジンで、80%が工業用に流通。

対して、香水用に重宝される本物のラベンダーは標高800m以上でしか育たないため、より希少です。 ラベンダーは収穫後に蒸留され、農家自身が高額で規制の厳しい機械を導入して加工する場合もあれば、専門業者に委託するケースもあります。

「価格の問題が深刻。5年連続で赤字です」

「特にラバンジンの価格が深刻です。ここ5年、農家はコスト割れで売らざるを得ない状況です。15年前、需要の高まりから、多くの人が(伝統地域以外でも)ラバンジン栽培に参入しました。その結果、今では供給過多で、4年間で価格は70%も暴落しました。」

そう語るのは、ラベンダー生産者であり、フランス精油協会の代表を務めるアラン・オバネル氏。同協会は全国で2,500人の会員を抱えています。

他の作物が育たない地域でこそ深刻な打撃

「特に**アルビオン高原(ヴォクリューズ県)やヴァランソル高原の一部(アルプ=ド=オート=プロヴァンス県)など、ラベンダー以外に作物が育ちにくい地域では、この市場の不安定さは致命的です。」

オバネル氏によると、フランス産のラベンダーやラバンジンは1kgあたり70〜180ユーロで売られる一方、ブルガリア産などは25〜50ユーロ。品質は劣るにもかかわらず、ラベル表示はほぼ同じ。

「ひどい品質のものも、表示上は私たちと同じように見える。それは社会的・環境的ダンピング(不当な価格競争)です。大手香水ブランドは品質を理由にフランス産を選ぶでしょうが、他は半額の外国産に流れてしまう。」

「岩だらけの高地。他の作物が育たない」

標高1,000m、アルビオン高原のソー村で、150ヘクタールのラベンダーと50ヘクタールのラバンジンを育て、自家蒸留所も持つジェローム・ボエンル氏もまた、今年は収量が30%減。

「春の雨では良い予感がしていたのに、6月の猛暑で台無しに。うちの土地は石が多くて浅く、しかも灌漑設備がない。ラベンダー以外は育たない。だから今は、農薬や設備投資など、あらゆるコストを見直しています。」

蒸留事業も、収量減や栽培放棄により影響を受けており、「私は前向きに考えたいけれど、娘が後を継ぎたいと言っていて心配です。この仕事は気候に大きく左右される非常に特殊な仕事ですから。」

「品質と直販モデル、そしてA.O.P.認証が希望の光」

一方、同県内の標高1,400mに位置するメゼル村とラ・ミュール=アルジャン村では、ジルダス氏とヴェロニク氏が、AOP(原産地名称保護)付きの高級なラベンダー(真正ラベンダー)を栽培し、危機の中でも安定経営を続けています。

かつて70軒あった生産者は、いまや20軒ほど。彼らは20ヘクタールの畑で、「Bleu d’Argens(ブルー・ダルジャン)」ブランドとして、精油・石けん・スキンケアシリーズなどを、自社店舗や地元マルシェ、オンラインショッピング、さらには香港や日本にも輸出しています。

「うちは種から育てる天然の野生ラベンダーだから、花の色にもばらつきがあるんです。でも、それが自然の証。1ヘクタールあたり16〜20kgと収量は少ないけれど、標高と地元の気候のおかげで、今年も良い収穫になりました。」

ヴェロニク氏もこう続けます。「私たちは伝統的な自然乾燥を大切にし、高山植物としてのラベンダーの“本物の価値”を守り続けています。価格は少し高くなりますが、そのぶん長持ちし効果も高いと、お客様にも好評です。」「市場はニッチですが、ラベンダーに未来はあります。大事なのは、品質基準を守ることなんです。」

元記事:https://www.leparisien.fr/bouches-du-rhone-13/alerte-violette-sur-la-lavande-de-provence-on-a-un-probleme-de-prix-15-10-2025-WAKF3KFIUZDK5N3AEBCKT27QY4.php

 

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