真正ラベンダーとラバンジンの違いを徹底解説|香り・効果・選び方のポイント

真正ラベンダーとラバンジンの違いを徹底解説|香り・効果・選び方のポイント

ラベンダーの精油を選ぶ際、最も重要なポイントのひとつが「真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)」と「ラバンジン(Lavandula x intermedia)」の違いを理解することです。見た目や名前は似ていても、香りの特徴や用途、育つ環境など、実は大きく異なります。

品種の違いが香りの違いに

真正ラベンダーは原種、ラバンジンは交配種です。真正ラベンダーは種子によって自然繁殖し、香りも柔らかく繊細。一方、ラバンジンはスパイクラベンダーとの自然交雑種で、クローン栽培により大量生産され、香りはシャープで刺激的です。

この品種の違いが、香りの成分や使用感に明確な差をもたらしています。

真正ラベンダーの原産地と特徴|フランス・オート=プロヴァンスの希少な高山植物

真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)は、南フランス・オート=プロヴァンス地方の標高800〜1,400mの高地に自生する原種のラベンダーです。学名の通り「狭い葉を持つラベンダー」であり、その繊細な見た目と同様、香りもやさしく、奥深い芳香が特徴です。

真正ラベンダーは「Lavande Fine(ラヴァンド・フィーヌ)」や「Lavande Vraie(ラヴァンド・ヴレ=本当のラベンダー)」とも呼ばれ、地中海沿岸のごく限られた山岳地帯でしか自然繁殖しません。特にフランス政府が定めるAOP(原産地名称保護)制度では、一定の標高・気候・土壌条件を満たした地域で、種子から栽培される野生種に限って“真正ラベンダー”として認証されます。

このAOP制度によって守られているエリアのひとつが、ヴェルドン自然公園内にあるアルジャン村周辺です。標高1,400mという厳しい自然環境の中で育まれるラベンダーは、夏でも昼夜の寒暖差が激しく、香り成分がぎゅっと濃縮されます。

一般的なハーブと違い、真正ラベンダーは自然繁殖を繰り返すことで、一本一本が個性ある香りを持つ「ラベンダー・ポピュラシオン(個体群)」として知られています。クローンによる増殖が行われるラバンジンと異なり、真正ラベンダーは畑全体に微妙な香りのグラデーションが存在します。まさに“自然が創る香りのアート”とも言える存在です。

さらに、標高が高くなるほど害虫の発生も少なく、農薬に頼らずとも栽培が可能です。これにより、より純粋で上品な香りを持つ精油が得られます。実際に、ブルーダルジャン農園では完全無農薬でラベンダーを栽培しており、年によって香りや成分が微妙に異なる“ヴィンテージ精油”としても高い評価を得ています。

真正ラベンダーの精油は、リナロールや酢酸リナリルといったリラックス効果に優れた成分を豊富に含み、アロマテラピーや医療分野、そして高級香水にも広く用いられています。

プロヴァンスの太陽とアルプスの清らかな空気が育てた、かけがえのない高山植物――それが、真正ラベンダーなのです。

ブルーダルジャン農園の無農薬真正ラベンダー畑

ラバンジンの原産地と特徴|ヴァランソル高原に広がる紫の海と大量生産の背景

ラバンジン(Lavandula x intermedia)は、真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)とスパイクラベンダー(Lavandula latifolia)という2つの異なる品種が自然交配して誕生した交雑種です。見た目は真正ラベンダーに似ていますが、香りや用途は大きく異なります。

このラバンジンが本格的に栽培されるようになったのは20世紀中盤以降。特にフランス南部のプロヴァンス地方、ヴォクリューズ県やドローム県の中でもヴァランソル高原(Plateau de Valensole)は、ラバンジン栽培の一大拠点として知られています。

ヴァランソル高原は、かつてアーモンドや小麦の畑が広がっていた土地でしたが、1950〜70年代の農業近代化により、ラバンジンの大量栽培地へと一変しました。特に、1957年に開発されたラバンジン・グロッソ種(Grosso)は、成長が早く、精油の収油率が非常に高いことから、世界中の生産者に広まりました。

この頃からヴァランソル一帯は、効率的な栽培と機械化により、一面が紫に染まる壮大なラベンダー畑へと変貌。現在では、観光地としても非常に人気が高く、「プロヴァンスのラベンダーの風景」と言えば、このヴァランソル高原のイメージが象徴的に用いられます。

ヴァランソル高原のラバンジン畑

ラバンジンは標高400〜800mの温暖な気候帯で育ち、栽培が容易なうえに耐病性・耐乾性にも優れており、広い面積での大量栽培に適しています。その結果、現在世界で流通している「ラベンダー精油」のうち、実に90%以上がラバンジン由来とも言われています。

ラバンジン精油の成分的な特徴

ラバンジンは香りの強さと刺激のある清涼感が特徴です。これは成分構成によるもので、真正ラベンダーに比べてカンファー(樟脳)1.8-シネオール(ユーカリプトール)の含有量が圧倒的に多いことが挙げられます。

ラバンジン精油におけるカンファーの含有量は5〜15%で、これは真正ラベンダーの10倍以上。また、1.8-シネオールも4〜8%と多く、これがスーッとした強い香りと、頭に響くような刺激感を生み出します。

一方で、リナロールや酢酸リナリルといった「リラックス作用」に関連する成分の比率は、真正ラベンダーよりも低くなります。そのため、ラバンジンはアロマテラピーのような心身のバランスを整える用途には不向きとされ、主に家庭用洗剤や防虫剤、業務用製品などに活用されています。

香りは強くても、癒しには不向き?

プロヴァンス各地で開催されるラベンダー祭りでは、多くの生産者がラバンジン精油について「これはアロマテラピーには向きません」と断言しています。なぜなら、香りが強すぎてリラックスには向かず、むしろ刺激が強くバランスが悪いとされるからです。

もちろん、ラバンジン精油もオーガニック認証を取得した高品質なものがありますが、その使用用途は掃除用スプレー、虫除け、衣類のリフレッシュなどが主流です。芳香浴やスキンケアには、やはり真正ラベンダーが好まれます。

プロヴァンスの風景を変えたラバンジン

ラバンジンの登場により、プロヴァンスの風景も大きく変わりました。1950年代までは野生種の真正ラベンダーが高地に点在していたこの地域も、今では一面のクローン栽培ラバンジン畑に。こうした背景には、大量生産による経済的な合理性と、農業の近代化がありました。

しかし、それは同時に真正ラベンダーの衰退と、香りの多様性の損失を意味しています。いま私たちが目にする「プロヴァンスのラベンダー畑」は、実は人の手によって作られた「風景」であることを、心に留めておく必要があるのかもしれません。

効率性と香りの質、自然と人工、ラベンダー選びはそのバランスをどう取るかにかかっています。

香りの違いを生む成分構成

真正ラベンダーとラバンジンの大きな違いは、成分表に現れます。特に注目すべきは「カンファー(樟脳)」と「1.8シネオール(ユーカリプトール)」の含有量です。

ラバンジンはカンファーを5〜15%含むのに対し、真正ラベンダーはAOP基準で0.5%以下。ブルーダルジャン農園の精油は0.19〜0.33%とさらに低く、刺激が少ないのが特徴です。

また、1.8シネオールもラバンジンでは4〜8%、真正ラベンダーは1%以下。この違いが、ラバンジンの清涼感と、真正ラベンダーのやさしくフローラルな香りの差を生み出します。

標高によって香りが変わる真正ラベンダー

真正ラベンダーの黄金時代とラバンジンの台頭|“青い黄金”と“ろくでなしラベンダー”の物語

20世紀初頭、真正ラベンダーは南フランスの山岳地帯における最も貴重な農産物のひとつでした。特に1920〜30年代は「真正ラベンダーの黄金時代」と呼ばれ、精油は「青い黄金(Or Bleu)」とも称されるほどの高値で取引されていました。

当時はラベンダー1年分の収穫で家を建てたり農地を買ったりできるほどの価値があり、プロヴァンス各地の農家にとって大きな希望と誇りの源でした。アルプス山脈の麓に位置するアルジャン村も、最上級の真正ラベンダーの生産地として知られ、高品質な精油は首都パリや国外の香水メゾンからも高く評価されていました。

「ろくでなしラベンダー」と呼ばれた交雑種の登場

そんな黄金時代の終盤、1920年代後半に新たなラベンダーの“異端児”が現れます。それが、後にラバンジンと呼ばれる自然交雑種(Lavandula x intermedia)でした。真正ラベンダーとスパイクラベンダーの交差点となる中標高地で、ミツバチの受粉などにより自然発生したとされます。

このラバンジンは、驚くほどの収油率(精油が抽出される割合)を誇り、真正ラベンダーの約10倍。さらに病害虫に強く、乾燥にも耐え、大地に根を張りやすい性質を持っていました。

しかし、その圧倒的な生産性とは裏腹に、真正ラベンダー農家たちからは冷ややかな目で見られていました。地元では揶揄を込めて「ろくでなしラベンダー(Lavande bâtarde)」、あるいは大柄な株の様子から「太っちょラベンダー(Lavande grosse)」と呼ばれていたのです。

農業の機械化と、ラバンジンの産業化

1930年代に入ると、フランスでは農業の機械化が加速。1928年にはニヨン地方でラベンダー専用の収穫機械が開発され、手作業に頼らない効率的な生産が可能になりました。これに呼応する形で、ラバンジンの挿し木技術(クローン栽培)が確立し、自然交雑種ではなく意図的な大規模栽培がスタートします。

1957年には有名なラバンジン・グロッソ種(Grosso)が誕生し、収油率・耐性ともに優れたこの品種は瞬く間にヴァランソル高原を覆い尽くしました。以降、プロヴァンス一帯の風景は真正ラベンダーの野生畑から、ラバンジンの整然とした人工畑へと大きく様変わりしていきます。

真正ラベンダーの衰退と絶滅の危機

1960年代になると、ラバンジンの圧倒的なコストパフォーマンスと、同時期に発展した合成香料の登場によって、真正ラベンダーの価格は暴落。多くの農家が生計を維持できなくなり、山の畑を放棄して町へと移り住むようになりました。

その結果、種から育てる野生種の真正ラベンダーは急速に減少し、1970年代には絶滅の危機に瀕する事態となります。ラベンダー文化の本場プロヴァンスでさえ、真正ラベンダーの存在は幻のようなものになりかけていたのです。

AOC(原産地呼称制度)の制定と復興の始まり

この状況を憂いたフランス政府は1985年、ワインやチーズなどと同様に、ラベンダー精油にもAOC(Appellation d'Origine Contrôlée)=原産地呼称制度を適用。厳格な基準を満たした高地栽培の真正ラベンダーのみが、正式な“Lavande Fine de Haute-Provence”として認められるようになりました。

AOC認証の条件には、標高800m以上、種子からの繁殖、無農薬、蒸留の方法、香り成分の含有量などが細かく定められており、現在ではわずか数十の農園しかその基準を満たしていません。

このAOC制度をきっかけに、真正ラベンダーは再び香水やアロマテラピー、植物療法などの分野で価値を取り戻し始めています。工業的な香りでは得られない“本物の癒し”を求める人々の間で、改めてその存在が見直されているのです。

「青い黄金」と呼ばれた真正ラベンダーと、「ろくでなし」と蔑まれたラバンジン。2つのラベンダーの物語は、香りの違いだけではなく、フランスの農業史そのものを映し出しています。

精油の用途と選び方の注意点

ラバンジン精油は主に家庭用洗剤や虫除けなどに使用され、香りが強すぎるためアロマテラピーには不向きとされています。実際に、プロヴァンス地方のラベンダー祭りでも、多くの農家が「これは芳香浴やスキンケアには使わないでください」と明言していました。

アロマテラピーや入浴、スキンケアに使用するなら、必ず真正ラベンダー精油を選びましょう。香りの柔らかさ、成分の穏やかさ、そして心地よいリラクゼーション効果が大きく異なります。

真正ラベンダー精油を選ぶ理由

まとめ|真正ラベンダーとラバンジンの違いを理解して、自分に合った香りを

真正ラベンダーとラバンジンは、見た目や呼び名こそ似ていますが、その本質はまったく異なります。香りの質、精油の成分、育つ環境、そして用途までもが違います。

香りに癒されたい方、アロマテラピーやスキンケアに活用したい方には、真正ラベンダー精油を強くおすすめします。

本物のラベンダーの香りと出会うことで、日常が少し豊かになることを願っています。

ブルーダルジャン農園の野生ラベンダー(標高1500m)

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