ラベンダーの聖地を巡る旅|アルジャン村 Vol.4

ラベンダーの聖地を巡る旅|アルジャン村 Vol.4

プロヴァンスの夏、香りが生まれる瞬間

南仏プロヴァンス地方、標高1400mの山間にひっそりと佇むアルジャン村。この村では、毎年7月になると真正ラベンダーの収穫と蒸留が行われ、谷全体が芳しい香りに包まれます。今回ご紹介するのは、そんな香りの祭典の舞台裏。観光ガイドには載っていない、ブルーダルジャン農園の蒸留現場に密着してきました。

目の前で香りが生まれる瞬間、五感すべてが研ぎ澄まされる体験でした。

蒸留の舞台裏:1日に6トンのラベンダー

精油の抽出には「水蒸気蒸留法」が用いられます。ブルーダルジャン農園では、100年前の蒸留器を使用。1基で500kg、2基同時で1トンのラベンダーを蒸留できます。驚くべきは、その作業が1日6回も繰り返されるということ。つまり1日に6トンのラベンダーが谷から運ばれ、精油として生まれ変わるのです。

蒸留機の写真

農園の畑は全部で53区画あり、最も遠い畑から蒸留所までトラクターで片道30分。一度に運べるのは2トンまでなので、1日3往復の重労働。しかも、谷を下って再び登る道のりは決して楽ではありません。運ばれたラベンダーはすぐに蒸留器へと投入され、香りの爆発が始まります。

ラベンダーを踏み込む、伝統の手仕事

ラベンダーを蒸留器に詰める工程では、人の手と足が活躍します。ふわふわの状態では蒸気が通らず、良質な精油が取れないため、作業員が釜の中に入り、体重をかけてしっかりとラベンダーを圧縮していきます。この作業は体力勝負。ラベンダーに埋もれながら、目や口に入る花粉をかき分けるようにしての格闘です。

釜に詰め終えると、12本のボルトで蓋をしっかりと閉め、圧力が逃げないようにします。そしていよいよ蒸留スタート。蒸留時間は約1時間。季節や乾燥具合によって微調整が必要です。蒸留所内はまるでサウナ。湧き水で水分補給しながら、じっと蒸留の完了を待ちます。

香りの抽出、そして循環する命

蒸留後のラベンダー

蒸留が終わると、精油と芳香蒸留水が抽出されます。精油は上層に、蒸留水は下層に分かれます。ここで得られる真正ラベンダー精油は、香りの透明感・持続性・薬理効果においてトップクラス。1回の蒸留で得られる精油は、ほんの数リットルです。

蒸留後のラベンダーは、香りこそ失われるものの、その繊維質は乾燥させて燃料として再利用されます。これにより農園では化石燃料の使用を最小限に抑え、持続可能な循環型農業を実践しています。

また、見学ツアーも実施されており、シーズン中は500名以上の来訪者が訪れます。蒸留所に広がるラベンダーの香りと、蒸気の立ちのぼる光景は、一生の思い出になること間違いありません。

香りが生まれる場所を訪ねて

刈り取られた後のラベンダー畑

刈り取られた後のラベンダー畑は、静かな緑色。紫の絨毯のようだった風景はまた来年までお預けです。けれど、この畑には来年への希望が、確かに宿っているように感じられました。

アロマ製品に携わる私にとって、この体験は単なる仕入れではなく、香りの背景にある人々の暮らしと情熱を感じる旅でもありました。エッセンシャルオイルは単なる香りではなく、「誰が、どこで、どうやって作ったか」というストーリーが込められた命の結晶だということを、改めて胸に刻みました。

次回はラベンダー畑の手入れや在来種の保全活動についてご紹介します。どうぞお楽しみに。

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