南仏プロヴァンス地方のラベンダー巡礼旅|アルジャン村 Vol.3

南仏プロヴァンス地方のラベンダー巡礼旅|アルジャン村 Vol.3

南仏プロヴァンス地方、標高1,400mの山岳地帯に位置するアルジャン村。ここにある小さな農園「ブルーダルジャン」で、私は人生初となるラベンダー収穫に参加しました。2018年の夏のことです。実はこの訪問は、単なる取材目的でした。しかし、滞在中に度重なる雨で作業が遅れ、思いがけず現場のお手伝いをすることになったのです。

日本でラベンダー専門店を立ち上げた私にとって、「自らの手で刈り取り、蒸留まで携わる」という夢が叶った瞬間でもありました。プロヴァンスというと、どこまでも続く紫色のラベンダー畑を思い浮かべる方も多いでしょう。しかしその裏側には、気候、土壌、標高、そして人の手による細やかな作業があるのです。

ラベンダー栽培を脅かす異常気象

雨の中のラベンダー畑

2018年のプロヴァンスは異常気象に見舞われ、例年では考えられないほどの雨が続きました。特にブルーダルジャン農園では、3ヶ月分の降水量がたった1日で降るという事態も。ラベンダーの収穫時期に雨が重なると、畑がぬかるみ、トラクターすら入れなくなります。この時期のプロヴァンスは通常カラッと晴れるのが常識。それだけに、今年は特別だったのです。

そんな中でも、農園の人々は収穫のタイミングを逃さぬよう天気とにらめっこしながら準備を進めていました。香りの成分が最も凝縮される「満開手前」のタイミングを見極めるのが、ラベンダー栽培の肝。私もその一瞬を逃さぬよう、毎朝畑を見て回る日々が続きました。

無農薬、有機、そして羊たちとの共生

羊による除草

ブルーダルジャン農園の最大の特徴は、無農薬・無化学肥料で真正ラベンダーを育てていること。除草にはなんと数百頭の羊を放ち、雑草だけを食べてもらうという昔ながらの方法が用いられています。羊たちはラベンダーには見向きもせず、きれいに雑草だけを食べていきます。

さらに驚いたのが、収穫後のひと手間。トラクターで刈り取った花束は、一度畑に広げられ、人の手で雑草と分けられるのです。今年は特に雑草が多く、その分作業量も倍増。観光客も一緒になって分別作業を手伝う、なんとも人間味あふれる風景が広がっていました。

標高1,400mが生み出す香りの違い

高地に広がるラベンダー畑

多くのラベンダー農園が標高800〜1000mに位置する中で、ブルーダルジャン農園は1400mという高地にあります。この気候差がラベンダーの香りに違いを生み出すのです。朝晩は10度を下回ることもあり、日中は30度超え。激しい寒暖差によって、香りはより繊細で華やかなものへと変化します。

また、この地域は石灰質の土壌で知られ、雨が降るとぬかるみやすくなる反面、日照時には水はけが良くラベンダーにとって理想的な環境。乾燥を好むラベンダーにとって、まさに理想郷とも言える土地なのです。

蒸留という最終プロセス

ブルーダルジャンの蒸留所

農園内には自社の蒸留所が併設されています。収穫されたラベンダーはすぐに運ばれ、天日干しののち蒸留されます。このプロセスが香りの深みを左右するため、作業は1日中続き、時には深夜まで及ぶことも。ラベンダーの香りが漂う中で、湯気を立てる蒸留器の音だけが静かに響きます。

現地では成分表よりも、香りと作り手への信頼が重視されます。ラベンダーの香りを五感で味わう。そんな体験がここにはあります。

この小さな村で、自然と人が共に紡ぐラベンダーの物語は、単なる商品としてではなく、人生に寄り添う香りとして多くの人の心を癒しています。私自身もその一部を担えたことに、深い喜びを感じています。

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