古都エクスと街並みの魅力
初めて訪れる街は、やはりいつだって胸が高鳴ります。今回の旅先は、南仏の古都、エクス=アン=プロヴァンス(Aix-en-Provence)。
これまでにもフランス国内を数多く旅し、大都市パリから人口わずかな村まで、思い返せばすでに30都市近くを訪ねてきました。あの、路面電車の乗り方さえ分からなかった5年前の自分が懐かしく思えます。
中でもプロヴァンス地方の街並みには、独特のあたたかみがあります。石畳の路地に響く人々の笑い声、軒先のテーブルでワインを傾ける老夫婦。街を歩いているだけで、人の暮らしがそこに根を張っているのを感じます。

広場も路地裏も、カフェやレストランのテラス席で埋め尽くされていて、声の大きなフランス人たちの会話が反響し合い、街のにぎわいは2割増しのように感じられます。
観光地とはいえ、ここではあくまでも現地の人々の暮らしが優先されていて、観光客はあくまで"来訪者"としての立ち位置。だからこそ、地元の人たちと自然に混ざり合う体験ができるのです。
とはいえ、どこのカフェでも温かく迎えてくれるわけではありません。店員の無愛想さに心が折れそうになることも。そんなときは、マリア像の前で出会いに感謝しましょう。(チップは少し多めに...笑)
統一感ある上品な街並み
エクサンプロヴァンスの第一印象は「上品」。街の規模はコンパクトながら、ベージュ色の石材で統一された建物たちが整然と並び、そこに溶け込むようにショップが軒を連ねています。

中には、世界的なブランドであるエルメスのブティックも。気づかず通り過ぎてしまいそうなほど街並みに同化していて、あの象徴的なオレンジを全面に出すことなく、控えめに、しかし確かな存在感を放っています。
この控えめな主張こそが、フランス流の美学なのかもしれません。
一方で、朝市で目を疑う光景を見かけました。なんと炎天下の中、氷の上に海産物が無造作に置かれている...。日本であればすぐに注意を受けそうな状況でも、ここでは日常の一部。魚も貝も、ハエも(笑)もはやアートのように並んでいます。
新鮮さよりも「日常の営み」の一環としての存在感なのかもしれません。とはいえ、日本の海で育った私としては、どうしても気になってしまうのです。

噴水の街としての顔
エクサンプロヴァンスは別名「噴水の街」とも呼ばれ、いたるところに小さな噴水が点在しています。
街の騒がしさとは裏腹に、噴水の水音は静かで涼やか。小鳥が水を飲む姿が見られるなど、都市の中に自然が共存する光景に、心が和みます。


ワインバーで地元との出会いを
街角に見かけた「Bar à vin(ワインバー)」の文字。フランス語での読み方は「バ・ハ・ヴァン」。
旅の途中、こんなローカルなバーにふらっと入ってみるのもおすすめです。会話を交わした地元の人から、意外な名所や、おいしいレストラン情報を得られることもあります。
裏通りにこそ名店が

観光地にありがちな"大通りの賑やかさ"ではなく、静かに佇む裏通りこそ、エクスの真髄。

1階部分が通り抜け通路になっている建物、いわゆる"パッサージュ"の奥には、ひっそりと名店が佇んでいます。

この一角にある「La Fromagerie du Passage(ラ・フロマジュリー・デュ・パッサージュ)」では、新鮮なチーズを試食しながら、ワインとのペアリングも楽しめます。観光地にいながら、地元の味と静けさを味わえる貴重なスポットです。

裁判所のユーモラスなファサード

フランス人の感性というか、ユーモアが溢れているファサード。
足部分が未完成のままなのはなぜだろう。予算の問題か、時間の問題か。ちなみに、この建物は商業裁判所。つまり、ビジネスに関する裁判をする場所である。頭を抱えているのは、そのためだろうか。
この商業裁判所(Tribunal de Commerce)は、17世紀に建てられた豪商の館「エスパニェ館(Hôtel d’Espagnet)」を改修した歴史ある建物。その正面に据えられた彫刻「アトランテス(Atlantes)」は、建築装飾のひとつで、建物を支える力強い男性像を模したもの。古代ギリシャ神話のアトラスに由来し、しばしばこのように建築の柱やファサード装飾として用いられます。
エクスの裁判所に飾られているアトランテス像は、彫刻家ジャック・フォッセ(Jacques Fossé)によるもので、頭部を両手で支えるようなポーズがなんとも印象的。重厚でありながら、どこか人間らしい可笑しみを感じさせてくれます。
正面玄関の両脇に、左右対称で配置された二体の像は、バルコニーを実際に支えているかのような造形美。フランスらしい建築のユーモアと粋が凝縮された、隠れた名所のひとつです。
こうした遊び心のあるデザインが、歴史ある建物に生命を吹き込んでいるのかもしれません。
── 次回もどうぞお楽しみに。
エクス=アン=プロヴァンス|石畳と噴水の街を歩く Vol.2
古都エクスと街並みの魅力
初めて訪れる街は、やはりいつだって胸が高鳴ります。今回の旅先は、南仏の古都、エクス=アン=プロヴァンス(Aix-en-Provence)。
これまでにもフランス国内を数多く旅し、大都市パリから人口わずかな村まで、思い返せばすでに30都市近くを訪ねてきました。あの、路面電車の乗り方さえ分からなかった5年前の自分が懐かしく思えます。
中でもプロヴァンス地方の街並みには、独特のあたたかみがあります。石畳の路地に響く人々の笑い声、軒先のテーブルでワインを傾ける老夫婦。街を歩いているだけで、人の暮らしがそこに根を張っているのを感じます。
広場も路地裏も、カフェやレストランのテラス席で埋め尽くされていて、声の大きなフランス人たちの会話が反響し合い、街のにぎわいは2割増しのように感じられます。
観光地とはいえ、ここではあくまでも現地の人々の暮らしが優先されていて、観光客はあくまで"来訪者"としての立ち位置。だからこそ、地元の人たちと自然に混ざり合う体験ができるのです。
とはいえ、どこのカフェでも温かく迎えてくれるわけではありません。店員の無愛想さに心が折れそうになることも。そんなときは、マリア像の前で出会いに感謝しましょう。(チップは少し多めに...笑)
統一感ある上品な街並み
エクサンプロヴァンスの第一印象は「上品」。街の規模はコンパクトながら、ベージュ色の石材で統一された建物たちが整然と並び、そこに溶け込むようにショップが軒を連ねています。
中には、世界的なブランドであるエルメスのブティックも。気づかず通り過ぎてしまいそうなほど街並みに同化していて、あの象徴的なオレンジを全面に出すことなく、控えめに、しかし確かな存在感を放っています。
この控えめな主張こそが、フランス流の美学なのかもしれません。
一方で、朝市で目を疑う光景を見かけました。なんと炎天下の中、氷の上に海産物が無造作に置かれている...。日本であればすぐに注意を受けそうな状況でも、ここでは日常の一部。魚も貝も、ハエも(笑)もはやアートのように並んでいます。
新鮮さよりも「日常の営み」の一環としての存在感なのかもしれません。とはいえ、日本の海で育った私としては、どうしても気になってしまうのです。
噴水の街としての顔
エクサンプロヴァンスは別名「噴水の街」とも呼ばれ、いたるところに小さな噴水が点在しています。
街の騒がしさとは裏腹に、噴水の水音は静かで涼やか。小鳥が水を飲む姿が見られるなど、都市の中に自然が共存する光景に、心が和みます。
ワインバーで地元との出会いを
街角に見かけた「Bar à vin(ワインバー)」の文字。フランス語での読み方は「バ・ハ・ヴァン」。
旅の途中、こんなローカルなバーにふらっと入ってみるのもおすすめです。会話を交わした地元の人から、意外な名所や、おいしいレストラン情報を得られることもあります。
裏通りにこそ名店が
観光地にありがちな"大通りの賑やかさ"ではなく、静かに佇む裏通りこそ、エクスの真髄。
1階部分が通り抜け通路になっている建物、いわゆる"パッサージュ"の奥には、ひっそりと名店が佇んでいます。
この一角にある「La Fromagerie du Passage(ラ・フロマジュリー・デュ・パッサージュ)」では、新鮮なチーズを試食しながら、ワインとのペアリングも楽しめます。観光地にいながら、地元の味と静けさを味わえる貴重なスポットです。
裁判所のユーモラスなファサード
フランス人の感性というか、ユーモアが溢れているファサード。
足部分が未完成のままなのはなぜだろう。予算の問題か、時間の問題か。ちなみに、この建物は商業裁判所。つまり、ビジネスに関する裁判をする場所である。頭を抱えているのは、そのためだろうか。
この商業裁判所(Tribunal de Commerce)は、17世紀に建てられた豪商の館「エスパニェ館(Hôtel d’Espagnet)」を改修した歴史ある建物。その正面に据えられた彫刻「アトランテス(Atlantes)」は、建築装飾のひとつで、建物を支える力強い男性像を模したもの。古代ギリシャ神話のアトラスに由来し、しばしばこのように建築の柱やファサード装飾として用いられます。
エクスの裁判所に飾られているアトランテス像は、彫刻家ジャック・フォッセ(Jacques Fossé)によるもので、頭部を両手で支えるようなポーズがなんとも印象的。重厚でありながら、どこか人間らしい可笑しみを感じさせてくれます。
正面玄関の両脇に、左右対称で配置された二体の像は、バルコニーを実際に支えているかのような造形美。フランスらしい建築のユーモアと粋が凝縮された、隠れた名所のひとつです。
こうした遊び心のあるデザインが、歴史ある建物に生命を吹き込んでいるのかもしれません。
── 次回もどうぞお楽しみに。